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大阪地方裁判所 昭和46年(行ウ)10号 判決

八尾市青山町二丁目五番地二七号

原告

藤井管治郎

大阪市東区大手前之町一番地

被告

大阪国税局長

丸山英人

右指定代理人

松崎康夫

遠藤忠雄

松井三郎

笹井邦彦

二井矢敏朗

右当事者間の裁決取消請求事件について当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が、原告の昭和四二年分所得税につき昭和四五年三月一一日付でなした裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。旨の判決を求め、その請求原因として

「一 原告は、訴外株式会社ヒメコウが昭和三八年一一月二八日訴外株式会社典宝より金七〇〇万円を借入れた際に、物上保証人となることを承諾して原告所有の大阪市生野区猪飼野東七丁目一九番地宅地約五一坪六合を抵当物件に提供したところ、その抵当権設定登記において連帯債務者として表示された。

二 株式会社ヒメコウは右債務を弁済できず倒産したので、原告は昭和四二年中において右債務の代物弁済として右物件の所有権を株式会社典宝に譲渡したところ、同会社は登記簿上その所有権取得登記をせずに右物件を他に売却し、登記簿上原告から直接右売却先への所有権移転登記手続がなされた。

三 原告が昭和四三年三月一四日付でなした昭和四二年分所得税の確定申告に対し、所轄生野税務署長は昭和四二年中前記不動産の譲渡所得八一一万一、六六二円があつたとして更正をなしたので、原告は法定の期間内に異議の申立をなしたが右申立は棄却された。

四 原告は法定の期間内に審査請求をなしたところ、原処分を一部取消し、所得金額を四八一万九、八八五円、申告税額を一五三万六、四〇〇円、過少申告加算税を七万六、八〇〇円とする旨の裁決がなされ、右裁決書謄本は昭和四五年三月二三日原告の肩書住所宛に送付され、原告の子の妻がこれを受領した。

五 原告は、昭和四五年二月末頃から病気療養のため滋賀県に在住する子の宅に居住しており、右裁決書謄本が送付された日から五箇月以上も経過した後、肩書住所に帰えり、右裁決がなされたことを知つた。

六 そこで、原告は大阪国税局相談室(テレフオン相談係)に事情を告げ相談したところ、行訴法第一四条に則り一年以内であれば訴訟の提起ができる旨の回答がなされた。

七 本件不動産の代物弁済は第三者の債務弁済であるから、所得税法第六四条に則り、原告には右代物弁済のための本件不動産の譲渡により譲渡所得があるとされるいわれはないから、その是正を求めて本訴請求に及ぶ」

と述べ、被告の本案前の答弁に対し「原告は大阪国税局相談室の前記回答を信頼して本訴を提起したものであるから、被告のこの点についての主張は失当である」と述べ、

立証として、甲第一号証を提出し、乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として「原告主張の二の事実の中その主張の不動産が他に譲渡されたという事実、同三の事実および同四の事実(ただし、受領者が原告の子の妻であるとの点を除く。)は認める。原告のその余の事実は知らない。

原告の本訴は裁決書送達の日から三箇月を経過した後に提起されているから、出訴期間を経過した後に提起された不適法な訴えとして却下さるべきである。」

と述べ、立証として、乙第一、二、三号証を提起し、甲第一号証の成立は不知と述べた。

当裁判所は職権で原告本人を尋問した。

理由

原告主張の三の事実および四の事実(ただし、受領者が原告の子の妻であるとの点を除く)。は当事者間に争いない。

成立に争のない乙第一、二、三号証、原告本人の供述並びに弁論の全趣旨によると、原告はかねてその息子夫婦らと肩書住居地において同居していたが、昭和四五年二月末頃から同年七月中頃まで病気療養のため滋賀県在住の子のもとに赴いていたこと、その間に本件裁決書謄本が原告の右肩書住所宛に郵送され、原告の息子の妻(当時三〇才位)が、同年三月二三日これを受領したこと、原告は同年七月中頃右転地療養先から右住所に帰り本件裁決のあつたことを知つたことが認められる。

右事実によると、原告は、行訴法第一四条に則り、本件裁決があつたことを知つた日から起算して三箇月以内、すなわち同年一〇月中頃までに本件課税処分(更正)もしくは裁決(裁決固有の違法事由を主張する場合)の取消の訴を提起すべきであるところ、本訴は右期間経過後の昭和四六年二月一六日提起されたこと記録上明らかであるから、本訴は適法な提訴期間を徒過してなされた違法な訴として却下を免れ得ないものというべきである。(原告主張の六の事実は、仮りにこれが認められるとしても右判示を左右するものではない)。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上三郎)

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